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 ながいあいだ会わないでいたから  ©2003

ガラス越しの長い夕方の日差しの中で
猫のように丸くなる
顔をあのひとのひざにうずめ
なつかしいにおいをかいで
目をとじる

きみ
髪を伸ばしたんだね
ずいぶんほっそりして
それに
笑わなくなったんだね
つっかかるようなものの言い方するし
とげとげして
なんだかずいぶん

手が遠慮しても声がするすると下着まで脱がせてしまうから
あたしはますます丸くなる

会わない間にいろいろあったのよ
そう言ってもよかったのかもしれないけれど
声にならなかった

自殺を図ったの
手首の傷見てよ
子供は死んだ
クスリ漬けでパクられたし
からだも売ったわ

そんなことを自慢できる
小説家がうらやましい

などとふと思って
ひざの上の頬が熱く赤くなる
恥ずかしくて恥ずかしくて
ぐいぐいと顔を押し付ける
あのひとのひざにも力が入る
あたしは猫のまま
呑み込んだ言葉のかわりに甘えた鳴き声を出す
求愛ととられてもかまわない

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   ©2003

知らない土地の小さな駅で降りて
改札を出ると
遠くまで幅の広すぎる道が続いていて
かげろうがゆらゆらと視界をにじませる
しおれかけたゼラニウム
人気がない駅前はむなしく
あまりにもどこかと似ていて
ただ暑苦しいアスファルトの道を歩いていると
汗がだらだら流れ出す

そのうち
すずらんという名のスナックか美容室に
突然出会うのだ

どんなまちにもすずらんという名の店が必ずあり
それは不思議なほどの真実で

そのとき舐めるような風が吹き
私の現在が瞬く間に肌からはぎとられる
過去に取り残されぬよう(だがどうすればよいというのか
急ぎ足で歩き続けると(それに何の意味がある
周囲は何ひとつ変わった様子もなく(何も見えないというのに
私は時の流れをおろおろと失ってしまう

かつて一度も動いたことのないような
第四次元のZ軸のある点は
螺旋のように進むこの三次元空間をのせて
けして後戻りはできぬというのに
すずらんという名は
不屈の取り決めに逆らう符号のように
積み上げられたガラクタを根こそぎ塵にして
舞い上げる
すべてが進んでいるのを(だがどこへ
感じることができない惨めな私は(私とは誰だったか
きびすを返して店の前を通り過ぎる(いや逃げ出すのだ

それを俯瞰で眺めている太陽に位置する目が
自我の内的描像を次々と普遍化してしまうのだが
それとて私自身の目であり視線であるから

Z軸を抹殺したがるのは
すずらんという一見罪のない名と
それに付随する私あるいは人々の曖昧な記憶であり
そのようにして愚かな者は
忘却によって救われてきた

駅にたどり着くと
私は切符を買い次の駅に向かう
時をはぎとられてもまた舞い戻ればよいと
ほんとうは知っているから
どこで降りてもかまわない
しおれかけたゼラニウム
それが錯覚のシンボルであり
また滞る血でもある

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