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男 に   ©1999 

ふてくされ死にかけの
飼いならされたおちんちんたちよ
目覚めなさい
金髪マスカラべったりの若い娘
寄せて集めたウソっこ胸元太ももを
横目で盗み見ることしかできぬ主人の
どうあれちんぷなまぬけづら
そいつときっぱり訣別し
その手の馴れ馴れしさから
猿のようにむなしいなぐさめから逃れなさい
湧き上がる衝動につき動かされ(ああ家庭の幸福
激しく空回りしつつもいきり立ち(やりてえ けど
のたうつ女体を相手に(ああ世界の平和
ひるむことなく繰り返したピストン運動を
思い出せさあ思い出せ
あの先延ばしされる快感と情熱の一体化の
解き放たれたおまえ自身の
なんと力強く自由であったか
恍惚を手にしたおまえ自身の行儀悪さが
なんと美しく時を止めたか
ふてくされ死にかけの
飼いならされたおちんちんたちよ
いますぐ目覚めなさい
名ばかりの妻とのぎりまんを(夢の虹色 世界は一家
札びらに群がる女の味気ない喘ぎ声を(ああんやめて なんて
断固として拒絶せよ(愛のばら色 世界は一つ
おまえたちのほとばしる純情をもう一度
生きよおっ立ち突っ込み震えよ
誇り高く太く硬く屹立したまま
おまえたちを切望するやわらかなくぼみで
祝福されずとも
歓喜を分かち合いなさい

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 ハネムーン  ©2000

ガラス張りのシャルルドゴール空港に
雨が降り注ぐ
剥き出しの白い鉄骨が奇妙に曲がり
正しく入り組んで高いドームの天井を支え
成田行きのエールフランスが発着するターミナル2Fは
脚のついたラグビーボールのように
有機的で角がない

夜も更けた
音もなくガラスというガラスが雨に濡れ
夜間照明に照らされて光るのを
わたしは不思議な気持ちでただ眺めている
雨を感じながらじっとりと濡れてゆくようで寒い

あなたは腕を組み押し黙っている
おそらく兎のことを考えているのだろう
そのかわいらしいピンクの脳味噌で
ただただ考えているのだろう

パリに降りるとき
わたしがこの空港にはたくさんの兎がいると言ったら
窓におでこをくっつけニコニコ笑っていたあなた
そして唐突に路地の肉屋で毛のついたままの兎が
きれいに積まれているのを見てしまったあなた
死んでぬいぐるみのように横たわり
首を落とされ皮をはがれるのを待っている兎たちは
あなたの目に焼き付いているはずだ

あなたの勤める小学校で
金網の中の兎が惨殺されたとき
あなたは半狂乱になった
今でもあなたは捕まらない犯人を深く憎んでいる

しかしわたしたちの国でも
毎日多くの兎が出荷され殺されているのだ
心やさしいあなたには耐えられない理由で
あなたはそれを知らない

いまあなたの考えていることは
取るに足りないことだろう
あなたはあまりにも無知で
あまりにも単純で
あまりにも幼い
シャルルドゴール空港に兎がたくさんいるのは
空港内で猟が禁じられているからなのに
あなたはそれも知らない

雨は兎の巣穴にも降り注ぐ
もうその小さく臆病で愛らしいいきものたちは
浅い眠りについていることだろう
あなたもわたしもおそらく同じように
彼らの偶然の幸運を思う

やがて涙を浮かべるに決まっているあなたのような存在を
罪のないものとして
わたしは愛さなくてはならないのだろうか

そう思うと胸にのしかかるものは重く
天井を突き抜けて降り注ぐ幻の雨に
わたしは濡れとけてゆきそうになる
それとも
そのような無知の生み出す幼い家庭に
とり込まれることを
わたしは望んでいるのか
雨のようにしずしずと
だがあつかましく居座るために
望んでいるのか


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 題名のついた詩のかずかず  ©1980

アスパラガスの白い陶器のふたのついた小箱
れんが色とピンクをたして2で割ったような
色のついたリボンで束ねられたアスパラは
いつになく行儀よかった きっと
それが気に入らなかったのだろう あの女は
私に それをくれた ORANGE HOUSE
という三宮の有名な店で 買ったらしい
その包みを 私は ありがとう といって
うれしそうにもらった あの女は化粧をして
いた 白地に 色とりどりの花をちらせた
ワンピースをきて 美人だったから まっくろの
髪はすこしパサパサしていたがまったく
男にもてそうだった それから 私は 右に
あの女は左に 歩く それから 私たちは
夏の夜に 浜べで会った 砂の上で
お互いの つき合っている男の話をした
結婚するとき どうやって決心するのだろうか
ということについて2人とも思いあぐねて
結局 笑ってごまかした それから
私たちはまた別れた もうあれから
会ってもいない アスパラが あの女の
肌よりも白い 私はいつか不注意で
その陶器のなめらかな形をおとして
わるだろう そして同時に あの女も
消えてゆくだろう 別れたままになる
ことの大胆な重みが 私を うぬぼれ屋に
させる日がもうやってくるだろう

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   ©1999

ずっとずっと苦しかったから
僕は
空を飛ぶようになったんだ
彼はそう言いました

きみも飛んでみたいかい
そうきかれてうなずく

彼は小さなおもちゃみたいな飛行機に
わたしを乗せて舞い上がる
空へ

たかくたかく

ちらっと街が見えた
車で一分も走れば通り過ぎてしまえるメインストリート
たった一つしかない雑貨屋には
グレープフルーツの香りのシャンプーと
グレープフルーツの香りのソープと
グレープフルーツの香りのボディーローションと
グレープフルーツの香りのタルカムパウダーが
山のように積んであった
それが粗末な飛行場のあるアメリカの田舎町の
名物なのです

昨夜はたった一軒しかないレストランに行きました
フライドチキンを注文したら
太ったウェイトレスが
鶏一羽分のから揚げののっかった大きな皿を
ドスンとわたしの前に置いた
白いエプロンの胸当てからはみ出る大きなおっぱいが
何も言わせない
それからあっけにとられているわたしのところに再びやってきて
同じくらい大きな皿をもう一枚置いた
ニンジンのグラッセとゆでたインゲンが
広大なマッシュポテトのシーツの端で反乱を起こしかけていて
彼はそれを見て
声を出して笑った
子供みたいに
ほんとうに愉快そうに

黒く枯れた深い井戸のように
乾いた闇を瞳の奥底にたたえている彼の
そんな顔を見たのはうまれて初めてのような気がして
胸がつぶれるほどうれしくてはしゃいだのに

空の上では
風のうなりとエンジンの音が
鼓膜を突き刺し
皮膚をあわ立たせる
荒地の上空でわたしは昨夜の声をなくした

自由になれると思ってただろ
空を飛べば
飛べさえすれば

彼にそう言われて
わたしは
泣き出しそうだった

重力が
圧倒的に自分を地面に縛り付けている
その力を感じただけだったからです
パンパンにむくんだ足と
感覚を失った面の皮が悲鳴をあげる
自由などなかった

だってさ
僕らは
鳥じゃないんだ

彼は
空を飛んでみたら
もっともっと苦しくなったんです
きっと

お皿の上のチキンを見て
彼が笑ったのは
きっと翼が自由を得るための道具ではないと
すでに知っていたから

彼とわたしは
完全に行き場を失い
もう一度飛びたつ

そして地面に向かって墜落しました
ためらいもなく
翼を夢みなくなったので
すでに一度失われてしまった命を捨てるのは
微塵もこわくありませんでした

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 エイプリルフール  ©2003

恋する人はだれでも
詩人になるというけれど
沈黙の岩になる男だっているのよね
テーブルにコップの水をこぼして
人差し指でぐるぐるうずまきを描きながら
女は口をとがらせる
なんでそういう大事なことは
誰も教えてくれないんだろ
なぜか突然怒りにも似たどろどろとあついものが
熔岩のように吹き出して
胸や目の前を覆い私はまばたきする

レスリー・チャンがマンダリンオリエンタルホテルから飛び降りた
というニュースが
テーブルの上のぬるい水でできたうずまきにのまれてゆくのを
冷たい気持ちで眺め
顔をあげるとガラスごしにバス停が見えた
がさがさに乾いたきたないベンチで
どうしようもなく趣味の悪い服をまとった老人が
ひとりなにかを待っている
女のいうことに興味はないけれど
やりきれなさが伝染する

君は理想的な旅の道連れだ
楽しくて空想好きで
好奇心が旺盛で態度がデカい

男のふりをしたアニタ・ユンに恋してしまったレスリーは
スクリーンの中でそう言った
そのときのやさしい顔が目に浮かぶ
金枝玉葉はつまらないラブコメディだが
私は見るたびに泣けてくる
ほかの人を好きになると
いままで好きだった人が色あせてしまうのは
しかたのないことだと教えてくれるから
明確に
単純に
心変わりすることの罪深さと喜びを
それが恋なら
そんなことが詩的であるわけはない

バス停にバスがやって来て
老人は立ち上がる
自分が老いて輝きを失い
過去に追いやられるのはたまらないよ
行く先がなくなれば
私だって沈黙の岩になるでしょう
動かぬ本心は誰かに言えるはずもなく
誰かが聞きたいはずもない
ウソだよって笑いとばせるのは
やっぱりウソだけなのよね
と女がいう
黙って聞き流す
私は今日も四月バカである

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 アール・グレイ  ©1983

香料が配合されている
発酵させた後乾燥させた葉に少量の熱湯を注ぎ
二分ほど待つ
湯の色がオレンジに変わり、葉がひらく
氷をつめたグラスにあみで葉を受け色のついた液体だけを注ぎ込む
独特の香りが漂う

彼と私は
その飲み物を好んだ
あるキマッタ店でバラバラの席に腰掛け
木製あるいはステンレス製のパズルに熱心に取り組みながら
その飲み物を飲んだ
クチのなかやノドに同じ香りが残る
彼と私は
いっしょにねむらない
彼は私でないオンナと
私は彼でないオトコと
ねむり、性交した

あるトキ、あるいはツネに
彼と私は一台のバイクに乗り
彼がそれを運転し私は彼の背中にもたれかかって
あわい風を同時に楽しんだ
もちろん声がとどかない戸外では
スピードもあり走り続けているため
それでも彼は私に私は彼にささやき続ける
互いの衣服をはさんで背と胸を密着させていると
体温がつたわるかに感じられる
彼の胸や腕や私の背や脚が凍えているにもかかわらず
からだの中からあついかたまりがひとつふたつと姿をあらわす
それは独特の香りを放ちのどもとまでこみ上げた
発酵し乾燥させられ熱いものにふれるとひらいてゆく
彼と私は性交する必要を持たない

彼と私のそのようなチンモクは
彼のオンナと私のオトコによって
あるとき突然妨げられる
アナタタチハドウイウツモリナノカ
と私は彼のオンナにきつく問われ
ヤメロと彼は私のオトコに命令口調で言われる
かまわないわよと私は言い
(ホントウハナニモハジマッテイナイノダガ)
彼とはそれきりになった
私のオトコは彼をきらい
私の衣服をはぎとり私のカラダをなでさすった
私とオトコは慣れた感触をもつシーツの上で性交したが
いつも、あるいはすでに
彼の背中より冷たいものにしかふれられなかった

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 約束の地でも会えぬのなら   ©1982

わたしは一通の手紙がほしい
あなたがふかい確信に満ち あなた自身の認めうる成果をかくじつに手に入れようと
ながい夜を突き進みながらも
耐え切れぬほどの孤独にさいなまれる瞬間
ただ一度
わたしのことを思い出して
あなたがたったひとりの場所でわたしに宛ててつづる一通の手紙

あらゆる苦しみがあなたを覆い
あらゆる人々があなたを打ち捨て
裏切りのさなかでなにもかもを失い
せかいがあなた自身に語りかける声をききとることさえ忘れてしまった日にも
あなたがたえずおかしてきた失敗のかけらが
あなたに襲いかかるのをとめることはできない
うずまく最後の淵で顔をゆがめあなたは立ちすくむ

このようなとき このような場所にいてさえ
わたしはすべてに向かって解き放たれていなければならないのです
わたしはなにものも受け入れることができないのだから
わたしはすべてと共にありすべてと共にはない
すべてのものがときとともにわたしをさらい わたしがすべてのものを盗み続ける
なぜならわたしは
あなたとせかいとをむすぶためにこの世にうまれてきたからだ

ただひとつのあなた自身の真実が
やがてあなたを戦いの夜へとかりたてる
あなたは慎重なあしどりで新しいせかいに踏み出すのだ
わたしはあなたの孤独をまもるだろう
あなたは孤独をもちしかもひとりではない
あなた自身の真実はわたし自身の真実なのだから

わたしは一通の手紙がほしい
このようなとき このような場所にいてさえ
わたしはすべてに向かって解き放たれていなければならないのです
わたしは勇気を奮い立たせ
あらゆる未来に向かっている
そして
あなたからの一通の手紙を わたしは繰り返し読むだろう
繰り返し繰り返し読むだろう
あなたがひとりではないことを思い出したことを繰り返し繰り返し知るだろう
たとえどのようなかたちであなたと遠く隔たっても
わたしは一通の手紙を手にいくつもの朝を生みだす
なぜならわたしは
あなたとせかいをむすぶためにこの世にうまれてきたからだ

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 L u c y  ©2002

毛布をはなさないライナスの
ヘアスタイルのことで悩んでたんだ僕は
右と左で色の違うソックスをはいてても
気がつかないほどのぼんやり屋なのにさ
ときどきへんなことが気にかかる
栗のイガって何本くらいあるのかなとか
13階の研究室の窓をこの前磨いたのは誰なんだろうとか
そうやってすぐにまわりのことを忘れちゃうんだ
だから自転車を押しながら
黙って隣を歩いてた君のくちびるが
何かつぶやいているみたいに不思議な動き方をしているのを見て
またヘマしたんじゃないかとあわてちゃったよ
どうしたのってきくと
47×68を暗算してたのって君は笑った
クルクルと肩の上でカールした短い髪が
真冬なのに5月の空めざして飛ぶヒバリの歌みたいにひるがえって
そのとき僕はすべての悩みを忘れたんだ
前にもこんなことがあったな
たしかあれは君のふるさとの街の洪水のあとだった
 「水がひいた道路に
 おぼれたぬいぐるみが残ってたの
 何もかも流されたのにさ」って君は言ったね
君のガラス玉みたいな目を見て
僕は理解したんだよあのとき
世界をね
それからルーシー
君のオツムは最高にイカしてるって

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