微 分 ©2001
私は数学の教師です。いまは授業中です。銀縁の眼鏡をかけて髪を後ろでひとつに束ねてグレイのジャケットを着ています。地味な格好だと思います。
私は白いチョークを持って黒板に数式を書きます。板書が好きなんです。チョークが黒板に当たるコツコツという音がたまりません。
生徒達がゴソゴソと手紙をまわしたりマンガを読んだりパンをかじったりいねむりをしたりとにかく授業と関係のないことを熱心に行っているのを背中で感じながら板書に熱中し頭の中ではゆうべのことを考えています。
あの人の大きな手がTシャツの上から私の乳房を長い間なでていたこと。くちびるで目の上にそっとキスをしてそれから耳の後ろや首すじを舌でなぞっていったこと。乳首から下へ手のひらがスカートの中へ移動しておしりをゆっくりとなでながらすばやくパンティーを脱がせたこと。Tシャツをまくりあげてブラのホックをはずし胸におおいかぶさり指を私の濡れたヴァギナに突っ込んで動かしながら乳首をなめたり吸ったり噛んだりしたこと。私は思わず声を出し体を反らせました。
とても気持ちがよくて恥ずかしかった。あの人はスーツを着たままでした。すぐ帰らなければならなかったから時間がなかったし、ほんとうは服を脱がして素肌とペニスをさわりたかったけどあの人はいじわるでかたくなに許さなかったし別れるときは悲しかった。キスがうますぎたからくるおしくすがりついてしまいたかった。
昨夜のお別れのキスを思い出すと乳首がキュンとかたくなります。私はチョークを強く握って数式を書き続けます。長い長い微分方程式です。書いているうちに下腹部があつくなります。身もだえしそうになるほど性欲がたかまってしまう。けれど今は授業中で私は教師なのでひたすら耐えます。あの人の大きな手になでまわされたいと思ったときチョークが折れて我にかえります。
○○クンと男子の名前を呼んで問題を前で解くように命令します。背の高い○○クンはいやいや席を立って黒板の前で無防備にたくましい背中をさらします。何気に集まる女子の視線。若くて生真面目な性欲が教室中にあふれているのを全身で感じて私は窒息しそうになります。私は○○クンの制服の下の体を想像します。まるでAVみたいだとも思うけれどほんとはAVなど見たこともない世間知らずのいやらしい中年女です。
もちろん微分方程式は美しい。だけど教えてあげたいのは方程式じゃなく性感帯やオーガズムや愛の予感や錯覚についてなのかもしれない。手淫ではえられない悦びを教えたい。秘め事はつくりものをなぞりパロディみたいになってしまうということ。その滑稽さと悲しみ。けれどこれはAVではなくて現実です。何にもかえがたい快感なのに。
それでも頭にあることは口にできません。私は数学の教師だから。あなたたちは生徒だから。ここは学校だから。私は小さな声を出します。微分を知れば世界は新しく見えるのです。そう言います。だけれど誰も聴いていません。私は妙に真剣になり無意識に眼鏡を人差し指で押さえます。微分は好きです。誰よりも。

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