ハネムーン ©2000
ガラス張りのシャルルドゴール空港に
雨が降り注ぐ
剥き出しの白い鉄骨が奇妙に曲がり
正しく入り組んで高いドームの天井を支え
成田行きのエールフランスが発着するターミナル2Fは
脚のついたラグビーボールのように
有機的で角がない
夜も更けた
音もなくガラスというガラスが雨に濡れ
夜間照明に照らされて光るのを
わたしは不思議な気持ちでただ眺めている
雨を感じながらじっとりと濡れてゆくようで寒い
あなたは腕を組み押し黙っている
おそらく兎のことを考えているのだろう
そのかわいらしいピンクの脳味噌で
ただただ考えているのだろう
パリに降りるとき
わたしがこの空港にはたくさんの兎がいると言ったら
窓におでこをくっつけニコニコ笑っていたあなた
そして唐突に路地の肉屋で毛のついたままの兎が
きれいに積まれているのを見てしまったあなた
死んでぬいぐるみのように横たわり
首を落とされ皮をはがれるのを待っている兎たちは
あなたの目に焼き付いているはずだ
あなたの勤める小学校で
金網の中の兎が惨殺されたとき
あなたは半狂乱になった
今でもあなたは捕まらない犯人を深く憎んでいる
しかしわたしたちの国でも
毎日多くの兎が出荷され殺されているのだ
心やさしいあなたには耐えられない理由で
あなたはそれを知らない
いまあなたの考えていることは
取るに足りないことだろう
あなたはあまりにも無知で
あまりにも単純で
あまりにも幼い
シャルルドゴール空港に兎がたくさんいるのは
空港内で猟が禁じられているからなのに
あなたはそれも知らない
雨は兎の巣穴にも降り注ぐ
もうその小さく臆病で愛らしいいきものたちは
浅い眠りについていることだろう
あなたもわたしもおそらく同じように
彼らの偶然の幸運を思う
やがて涙を浮かべるに決まっているあなたのような存在を
罪のないものとして
わたしは愛さなくてはならないのだろうか
そう思うと胸にのしかかるものは重く
天井を突き抜けて降り注ぐ幻の雨に
わたしは濡れとけてゆきそうになる
それとも
そのような無知の生み出す幼い家庭に
とり込まれることを
わたしは望んでいるのか
雨のようにしずしずと
だがあつかましく居座るために
望んでいるのか
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